朝井まかて著 朝星夜星 に脱帽  20230926

致仕風靡(ちしふうび)

ももじろうです。いつもジルがお世話になっております。

朝井まかて著 朝星夜星 に脱帽  20230926

 

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500ページ

細かい活字組で500ページもあり、最初はどうなるかと心配しましたが、

幕末から大正まで史実を交えて、長崎から大阪へ西洋料理をもって各藩の

日本でなく生まれたての日本国の為に駆け抜けた男(途中で逝った)

とその妻の話。

 

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特に気に入った(好きな)ページ

 

P24 「料理人の作るもんはぜんぶ胃袋の中に入って、何も残らんたい。

一日がかりで仕込んで卓の上にいかほど皿を並べても、一刻ほどできえてしまう。

いや、残されたら料理人の恥、きれいさっぱり余さず消し去ってもらうとが稼業たい。

ゆえにおれらの甲斐はほんのつかのま、食べとる人の仕合せそうな様子につきる。

その一瞬が振るわいが嬉しゅうて、料理人は朝は朝星、夜は夜星をいただくまで

立ち働くたい」

 

この数行前に、上記料理人稼業の真髄をのべるきっかけとなった、

女房を見初めた理由が述べられている。

「お前は本当に旨そうに、大事そうに食べとったとたい。頬や顎を動かすさまは、

気持ちよかほど元気で」

 

P190 前項より旦那の丈吉が、女性と理無いなかになったことを女房として

意見した後、丈吉が言った

「降参」につづく女房(ゆき)と丈吉の母親の援護射撃せりふが最高

ゆき「お詫びに、珈琲が淹れてくれんね」

丈吉「阿呆、調子にのるな」

縁側から居間の障子を引いた途端、丈吉が「あ」と棒立ちになっている。

「私も珈琲いただきますけん、よろしゅう」

ふじ(母親)が立っていた

 

P235 料亭がいそがしく、家の事に手が回らない嫁か姑に詫びる場面で

忙しくて姑を墓参りにも連れて行けてないと気をもむ嫁に、

姑が慰めの言葉を掛けた最後のせりふ「大丈夫、墓は逃げん

 

P267 これから年頃になる11、9,7歳の子供たちに行儀作法を仕込む

べきと言う夫(丈吉)が妻(ゆき)に言ったせりふ

「年頃になってからしもうたと思っても、時計は巻き戻せんぞ

 

P268 ホテル宿泊客への対応の心構えを従業員に説く丈吉と同じ考えの

ゆきが替わりに独白することば

“不満も満足も、お客しゃんは必ず誰(だい)かに喋る。それは怖かことよ。

そして有難かこと“

 

P271 自由亭ホテルで飼う事にした洋犬(元の名は、ジョージ)いろいろ

あったので意趣返しに、夫の名前“丈吉”よりもっとめでたい“大吉”と改名

ホテルの泊り客の外国人たちが“大吉”を可愛がりながら、言葉の分からない

ゆきに教えた、犬の躾の指南

“主人たるもの毅然たる態度を崩さず、命令は短く、叱る時はなお短く、

だらだらと説教しない。そして褒める時は盛大に褒め、常に慈しむべし。

大いに可愛がるべし“

 

P305 丈吉がゆきの知らぬ間に外に囲ったお妾三人が挨拶に来た時のゆきの

独白“男というやつは人間も犬も性根は一緒、別嬪で若いのが好きなのだ

(作中全てにおいて、ゆきが言う様々な独白セリフがおもしろく、

作品に味わい深さを添えている)

 

P327  長崎に再び自由亭馬町店を開いた後に、女房のゆきにこれから

何をするかを話す丈吉のセリフ

「何年かかるかわからんが、やる」

すらりと笑っている。ゆきもつられて眉を下げた。

まったく、皆、この笑顔にやられるのだ。果てしない大望を生き生きと抱いて

進むこの人に、男も女も協力したくなる。

「仕方なかよねぇ。お供しましょ」

 

P341  お妾トリオの年長・祇園の松子のセリフ

「うちは御寮人さんのためやったら、火の中水の中、御所の中。・・・」

京都人は最後に“御所の中”と言うのか、確かに禁裏には簡単に入れない。

 

P412 娘の錦(22歳)と丈吉が遅い夕食を食べながら話している情景で

錦はキャビッジ(キャベツ)を口に入れ、頬を動かしている。

二十二歳のおなごは歯の立てる音まで若い

 

P450 亡くなった丈吉を偲ぶ星丘のことば

「・・・。常に公のことを考える任侠の風がおありになった。・・・」

 

P501 逝ってしまった人たちを懐かしむ中でゆきが妄想した五代のセリフ

「仕方あるまい。いつだったか、坂本(竜馬)君も言ったよ。

人は誰しも夢半ばで人生を終える

 

P507 終章でのおゆきの締めのセリフ

おゆき。

秋空を見上げれば、星が瞬いたような気がした。

たくさんのことがあったけど、

星はこの世に降りて集い、巡り、そしてまた空へと散る。

 

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文章の作り方・回し方に脱帽・降参!

 

大変爽やかな読後感でした。

上記のほかに処々に『(表現、言い回し、情景描写が)上手いなァ!』と

恐れ入ることが多くて、丈吉ではありませんが、『降参!』でした。

 

特に、丈吉がおゆきを気に入った理由が大好きです。

『本当に旨そうに、大事そうに食べとった』

今は(一部では毎度の食事もままならない人々が増えているのに)

飽食の時代と呼ばれ外食していると、御店屋さんで自分が注文したのだから

どう食べようと“オレ・私の勝手”という様に、

食べ残しも含め食べ方が汚い+食べた食器も汚い人が多いです。

米粒ひとつも残してはいけない(お百姓さんに申しわけがない)と

祖母に躾られた、ももじろうですので、

私は外でも、家でも食べ残しはしませんし、平らげるので食器も綺麗です。

【祖母の躾(お百姓さんに申しわけがない)は嘘で、本当は没落武家

(会津まで応援に行き官軍に負けた桑名藩)の厳しい台所で育った為】

 

一点だけ違和感を持ったのが下記P14 の“気ぶっせい”が出てきた時です。

東京方言と認識していましたので、幕末長崎の傾城屋(女郎屋)の

表には出ない、田舎者奥女中が知っているとは思えない言葉でした。

 

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読みながら(確認含め)辞書引いた言葉の数々

P13 湯(ゆ)文字(もじ)  婦人の腰巻、浴衣

P14 気ぶっせい 東京方言、気がつまる感じ。

P33 剣呑(けんのん)   危険がせまる、不安に感じる。既に危険発生じには使わない

P39 目途(もくと)   めあて、見込み

P205 婀娜(あだ)  (女性の)粋で色っぽく、なまめかしい様

P257 日和(ひより)下駄(げた) 天気の日に履く、差し歯の(低い)下駄

雨の日の雨下駄は歯が高く、爪皮のカバーをつける

P315 肉置(ししお)  肉づき。刀の部位で使う時は肉置(にくおき)と読む

P326 通暁(つうぎょう)  すみずみまで非常に詳しく知ること。夜通しの意味も

P324 鬼薊菜  (鬼アザミの野菜と書いて)アーティーチョーク

独活  アスパラガス(文中:アスパラギヤス)

P379 口吻(こうふん)  口ぶり、言い方。 余分:接(く)っく吻(ふん)は、わかるね!

P385 生計(たつき)  てがかり。手段。特に、生活をささえる手段

P401 書肆(しょし)  書物を出版したり、売ったりする店

P505 諧謔(かいぎゃく)  冗談。しゃれ。ユーモア